OFFICE Santa 対談

平田オリザ×鈴木あきら グローバル人材の育成は、いかにして可能か〜劇作家・演出家の創造力に学ぶ〜

シミュレーションのシャワーを浴びせ続ける

:そのことをきちんとやっておかないと、セカンドライフプランという名のリストラも成立しない。第二の人生のスタートを切らせるための相談に乗ってやれないんです。そのことがだんだん具現化してきてると思いますけどね。

:だから、やっぱり悩む力、悩む体力が必要なんです。
日本の企業は、長い間悩まなくて済むようにしてきた。でも、人間は、確実にいつか悩むんです。だとしたら、悩む前に、きちんと悩むだけの体力とスキルを身につけさせてあげなければいけないってことですね。

:最終的にはそういったことをどのように疑似体験させていくかが重要だと考えています。海外旅行だとか海外留学を全員に経験させることはできない。だとしたら、疑似体験させてあげるしかないんです。
今私たちがやってるPRP(プロフェッショナル・ロールプレイ)というプログラムはそのためのものです。
プロの俳優が演じるドラマのなかに受講者も参加することによって、さまざまなドラマを疑似体験してもらう。たとえば、実際にその企業のなかで起こりうる外国人との摩擦であったり、あるいは価値観の違う世代とのコミュニケーションをシミュレーションして見せながら、みんなにディスカッションによって参加してもらう。
そのときに、たとえば「ゆとり世代」とのコミュニケーションであれば、その年代の俳優を使う。外国人とのコミュニケーションであれば、外国人俳優を使うことによって、リアルにそれを体験してもらうことができる。
これはかなり有効なプログラムだと考えています。

:その疑似体験、シミュレーションの力っていうのは、たぶん演劇の持っている一番の力なので、それをできる限りシャワーのように浴びせるしかないと思いますね。
シミュレーションの一つひとつは役に立ったり、立たなかったりするんですよ。要するに、コミュニケーションっていうのは、ある局面でその人の役に立つという限定的なものだから。でも、それをシャワーのように浴びせることによって、最終的にその人自身がそこから普遍性を獲得していくんです。

:パターンっていうのは、文章でいえば引用ですね。一つひとつは断片に過ぎないんだけど、その断片を織り、編むことで、その人のオリジナルの紋様が生み出されていく。その紋様こそが人格である。人生は引用の織物なんだってことですね。

:そうなんです。コミュニケーション教育をパターン化するっていうと、すごく反発があるんですけど、そうではないんです。最終的な人格っていうのは、個人の内面で独自に形成されるものなんで、そっちを先に教えようとすることの方が危険なんです。

:人格形成を優先させる教育というのは、今までのように、みんなが同じ方向を向いて、幸せというのは経済成長の先にあるんだという時代には有効だったかもしれないけれども、今となってはそれはもう無効だということですよね。
そのことを胸に刻んで、これからの研修開発を進めていきたいと思います。
長い時間、ありがとうございました。

BACK
1234
Copyright(C)2001-2013 Office Santa Corporation. All Rights Reserved.